NTTインターコミュニケーションセンター(ICC)での展示のこと

2019/04/17 日付の修正と追記

時間が経って、展示も終わり、自分が未だに納得できないこと、怒りを覚えることがなんなのか、冷静に考えられるようになってきました。書き残しておきたいと思いました。

(事前にひとつ付け加えておきたいのですが、今回作品を展示させてもらったICCはNTT東日本の管轄にある施設です。作品の企画・制作をサポートしてくれたのは、触覚技術を研究しているNTT基礎研究所です。このふたつは別の組織であり、本来であればお互いに干渉する権限はないそうです。今回の作品は、NTT基礎研究所の触覚技術の提供と、サポートなしにはつくれませんでした。作品をつくる機会をいただけたことにとても感謝しています。)

ICCで展示されていたわたしの作品《Grand Bouquet / いま いちばん美しいあなたたちへ》は、展示オープン5日前になってはじめて、この作品が公開不可能なほど、NTTインターコミュニケーションセンター(ICC)の親会社であるNTT東日本広報部から苦情のご意見がきていると今回の展示作品をキュレーションしている、ICC学芸員の畠中実さんから報告がありました。

わたしはこの作品の内容に関して、事前に脚本はお渡ししていました。展示の3ヶ月前、まだ撮影前の時点でした。脚本を見せたのち、数日後に、facebookのメッセンジャーでメッセージがきて、ある1シーンに関して、「NTT的にこのシーンはNGかも」と言われました。NTTのだれがNGと言ったのか、なぜなのか、それについては知らされませんでした。

NGと言われたシーンが、具体的にどういったシーンかというと、主人公の指が、自分よりも圧倒的に強い存在である黒い塊の暴力によって、折れてしまうという描写です。

わたしはそのとき、NTT的に指が折れる表現が、なぜ、どういった理由でだめなのか誰からも聞かされなかったので、問題視されたシーンを入れる理由、作品のコンセプトについてお伝えし、現段階でわたしがこのシーンを省くことはできないということをメッセージで伝えました。それからなんの返答もなく、話し合いも行われなかったため、予定通り全てのシーンの撮影を終えました。

予算と時間の問題で、期限内に作品が完成するのか、現場に作品を設置できるのか危うい橋を渡りながらでの製作でしたが、展示空間に落とし込み、はじめてようやくその作品の体験の一片が見え始めたころ、それは、展示オープン5日前のことでした。

学芸員の畠中さんに呼び出され、「この作品が、公開できないほどNTT職員の非難にさらされている」旨の報告を受けました。

その場で直接、NTT東日本広報部、ICC職員から集めたといわれるご意見リストを見せられました。内容について、メールで転送してほしいとお伝えしましたが、なぜかそのご意見リストは決して転送されることがなかったので、わたしが覚えている範囲で書き記しますが、一番驚いた意見は、下記でした。

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NTTは会社として、いいものをつくっているというイメージで世間に見られたいので、ホラー映画のような不快なものは会社の施設で展示するには相応しくない。

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他にも、オリンピック、パラリンピックを控えている東京で、指のない障がい者への配慮に欠けるような表現は好ましくない、であったり、花を吐くシーンがあまりにもリアルで、不快である。不快な作品は展示すべきでない。主人公の女性の目のアップなど、緊張を高められる表現は過激でよくない。等々。

事前に聞かされていた、指が折れるシーンだけでなく、作品全体の表現が、否定されていました。明らかに、作品を公開するなと伝えているようなものでした。どれだけこの作品が不快で極まりないとNTT職員の方々は思っているか、たくさんのご意見が箇条書きでまとめられていました。

このご意見を書いた方にとって、一作家がその作品をつくるまでの労力や、熱量は、会社のわかりやすいイメージアップにつながらなければどうでもいいのでしょう。ICCは、そういった方が認めた作品だけを展示しているスペースだということがそのときわかりました。そうした施設を美術館と呼んでいいのでしょうか。ご意見を言えばそれが通されるような会社のトップは、自分の地位を守りたいがために、いまのキャリアで失敗しないことが一番大事で、自分の所属する会社で展示する作品の価値や力は、鑑賞者のためのものではなく、自分にとって都合よく使えるものにしか、理解できないようでした。ICCは、そうしたトップからのご意見を受け入れてきたから、今も続けられているということも、畠中さんから聞かされました。

けれどもわたしが今でも納得できないのは、そもそも最初に問題にされていた指が折れるシーンについては、畠中実さん自ら、NGを下したということでした。理由は、展示3日前ほどになってようやく直接教えていただきましたが、指が一本ない、4本指という表現は、日本では「同和問題」で訴訟になるケースが多かったからだそうです。部落差別される人のことを、人間以下の存在と揶揄して、4本足=「4本指」と呼ぶ歴史があるのだそうです。最近ではあまり聞かなくなってきた問題ではありますが、過去には手塚治虫のキャラクターが4本指だったために5本指に書きかえられたりした例もあるそうです。そして、「同和問題」をネタにして、自分はそうした被害を受けていないのに、嘘の訴訟を起こす輩も最近はいるから注意しなくてはならないのだと言われました。

今でも疑問に残るのは3つの点です。

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わたしの作品では、指一本だけでなく、親指以外全て折れてなくなる表現でした。そもそも4本指にはなりません。けれどもなぜ、「同和問題」訴訟および詐欺訴訟へのリスク回避をしなければならなかったのか。

なぜ、撮影前に直接、畠中さんからわたしへの詳しい説明および話し合いの時間が設けられなかったのか。

○今回の展示の学芸員である畠中さん自身がそもそもNGだと思っていた表現を、上層部にどのような言葉で伝え、なにを確認しようとしたのか。

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けれども問題の渦中にいるとき、わたしはここまで冷静にものを考えられず、そのことについて聞くことができませんでした。

なぜなら、作品の公開を中止するか、ICC側の条件を飲み、不本意な展示方法でも展示するか、その二択を迫られていたからです。決断までに残された時間は、わずか4日間でした。その4日間の間に、作品を現場で完成させることもしなければなりませんでした。スタッフの方と試行錯誤して完成に向けて作業を進めながら、わたしは、この作品が公開できないかもしれないという巨大な不安をひとりで抱えたまま、けれどもどんどん面白みを増してくる作品に対して、公開の希望を捨て切れませんでした。

公開できなければ、これまで、たくさんの時間をかけて、満足いくギャランティを渡せなくても、未だ体験したことのない作品を実現することに、夢と誇りを持って戦ってくれたスタッフの人に、あまりにも申し訳が立たないと思いました。そして私自身、この作品が公開できない未来はあまりにもひどいと、ショックを受けていました。

いまでもなにが正解だったのかわかりませんが、0よりもなにかしらを公開したほうがいいと思って、どうしたら、普段は「レヴェナント」や「死霊のはらわた」を映画館で観ているICCスタッフの人たちを説得できるのか考え、伝え、話し合いを重ね、作品は、黒み入りですが公開することはできました。

けれども、当初畠中さんがNGだと思っていたシーンよりもたくさんのシーンが黒く塗られました。それらのシーンは、物語の流れにおいて、そのメッセージ性において、重要な役割を持つシーンでした。そのシーンがなければ、映画の物語は成立せず、ただ、「スゴイ」ものという印象になるだろうと思います。

展示公開前に、コミュニケーション技術を発展させてきたはずの会社が、作品でもって世に問うて、人々のコミュニケーションを促進する前に、会社の責任逃れのために公開中止を示唆してきたのはとても残念なことです。けれども一番最悪な結果、公開が中止になっても、誰かが責任を取らなければいけなかったようで、今回のわたしの対応は、ICC責任者の方にとっても大変満足のいくものだったと思います。

けれどもわたしは、最近ことあるごとに、こうした問題を思い出します。企業が勝手に世間に配慮して、作品の枝葉を狭めていること、隠していても、問題の解決にはならないし、もっとおぞましい表現や映像が、なんの志もなく、ただ人を傷つけるため、自分の欲求のはけ口のためにインターネットには流れているのではないでしょうか?

人間にはそうした醜い側面があること、皮一枚剥げば、ぞっとする臓器があること、もちろん見たくない人に見せる必要はないけれど、観て、知る覚悟がある人にはそれを見せられる、そうした作品を作る自由は大事にされていいと思います。

わたしの作品はそもそも一般に公開する前に、議論になる前に、鑑賞者とのコミュニケーションを断絶されたので、実際の作品を観ていない限り、なんの議論もできないと思います。

そのこと自体にもいまだにずっと、怒りを覚えます。

作品を通して議論することはできないけれど、この出来事に対して、わたしはまだ色々な方と話し合いたいと思っています。

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追記:2019年4月17日

3/15日に公開した文章ですが、わたしの日付の認識に一部間違いがありました。展示オープン5日前に公開中止の可能性を聞かされたとありましたが、実際には展示を完成させなければならないデッドラインの一週間前でした。公開中止の可能性を聞かされたのは、2018524日の夜でした。マスコミ等、関係者に一般公開の展示物と同じものを1日前に見せるプレオープンの日は61日だったので、公開中止の可能性を聞かされてから、実際に設営作業、問題に対してどう対応すればいいのか協議できた日数は一週間でした。わたしには展示5日前に公開中止の可能性を聞かされたという印象が強く残っていましたが、やり取りしていたfacebookのメッセンジャーの日付の部分を見返すと数日間違っていました。自分の思い込みで事実を誤認してしまい、またHPで間違った事実を公開してしまいました。深く反省したのと同時に、やりとりをしていたfacebookのメッセンジャーを読み返して、時系列を整理し、日付で間違っている部分も含めて追記します。

2月23日 ICCに直接今回の展示について打ち合わせに行き、畠中さんに脚本をお渡しする。

4月2日   ICCに伺ってわたしが全シーンの具体的なイメージ(写真をコラージュしたり、手書きで書いた静止画のスライドショー)をつくり、ICCに用意してもらった仮のスクリーンや壁などに投影して作品をどのように展示したらよいか畠中さん、プロデューサーと話をする。畠中さんにはここではじめて、写真や手書きの画ではあるものの作品が具体化したイメージをご確認いただきました。

4月5日 NTT基礎研究所の渡邊さんからメッセンジャーで指が折れるシーンはNTT的にNGかもしれないと伝えられ、わたしは、なぜこういった表現にしたいかを返信し、直接話し合える場を持ちたいとお伝えする。結局話し合いの場は設けられず、撮影に入りました。

4月19日 ラストシーン以外のすべての撮影が終了する。(ラストシーンは問題の箇所に当たりません)

4月27日 撮影した素材を繋いだ実写の映像を、ICCの壁をスクリーンに見立て投影しに行く。映像データには、のちに問題となる箇所を含む映像の具体的な実写のイメージは畠中さんにはここで初めて一緒にご確認いただいています。(下記写真参照)その日、わたしは畠中さんに「指のシーンがだめなのに、もっと後半のグロテスクとも受け取れる別のシーンは大丈夫なのでしょうか?」と聞きました。その際畠中さんは「指のシーンはなんとも言えないけれど、グロは大丈夫だと思うよ。グロは」と答えられ、今広報部に指の折れる表現について確認を取っているので、その回答を待っているとおっしゃっていました。

5月24日夜 今作品が、NTT東日本広報部、ICCスタッフから、指が折れるシーン以外にもこの作品の映像を見て不快に思うという意見が多数寄せられているため、公開中止の可能性もあることを畠中さんから伝えられる。

5月25日 昼は、作品の制作を引き続き行い、夜は、わたし、畠中さん、渡邊さんの3人で、この問題にどう対処すればいいか具体的な案を話し始める。

5月26日 NTT東日本広報部、ICCスタッフの方へ、わたしがなぜこういった作品をつくったのかの経緯についてと、現場で見て実際に体感してから判断していただきたい旨の文章を書き、畠中さんにメッセンジャーでpdf文書をお渡しする。

5月28日 ICCセンター長に問題のシーンも含め、未完成ではあるものの、触覚付きで現場で作品を体感していただく。

当初、ICCセンター長から花を吐く表現についてNGが出ていたのですが、現場で作品を実際に体感いただいて、作品に対するイメージが180度変わり、自分がNGだと思っていた花を吐くシーンに関しては、公開して良いと判断されました。その際「他のすべての表現も個人的には理解できるが、会社の人間という立場から、許可することはできない」と言われました。

また、作品が公開できる兆しが見えたこのタイミングで実は畠中さんご本人が指が折れるシーンについては、NGだと思っていたので、逆に他の誰がOKしても、畠中さんご自身は、同和問題に配慮して、このシーンを公開すべきでないと思っていたことを口頭で伝えられました。

5月30日 NTT東日本広報部の方一名が事前に黒みを入れた画も音も触覚もほぼ完成形に近い展示作品を現場でチェックし、これならばNTT東日本の施設で展示することを認められるという旨を伝えられる。

5月31日 最終調整をして作品完成。

6月1日 プレオープン。マスコミ、関係者プレオープンにいらっしゃった一般の方に作品を公開。

6月2日 展示オープン。

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追記:2019年4月23日
もうひとつ、追記しておきます。作品を展示する際、観たくない人は観なくても済むように、展示室は一般の通路からは仕切られ、事前に作品についての説明を読んで了承を得た方のみが作品を観られるように、ゾーニングする話はもともと出ていました。けれどもNTT東日本広報室は「ゾーニングしても認められない」とのことでした。なぜゾーニングしてもだめなのか、いまだに明確な答えはわかりません。

 

 



4/27 ICCにて撮影した写真。写真右奥から畠中さん、指吸さん、画面中央手前はおそらくICCの技術スタッフの方、画面真ん中の青いワンピースを着ているのがわたしです。この際、この写真に写っている方々は、問題のシーンを含む実写化された映像を確認していました。写真を送ってくれたのは、この日一緒に現場にいてくれた今作品カメラマンの寺井さんです。

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